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「数理・データサイエンスと大学」インタビュー

第8回 筑波大学システム情報系教授 情報学群長 / 情報環境機構長 和田耕一 教授 筑波大学が全国に先駆けて、データサイエンス教育を必修化
教育効果測定の結果を学外にも発信

数理・データサイエンス教育の協力校・筑波大学では、2019年度からすべての1年次学生を対象に「データサイエンス」を必修科目として開講した。人文、理工はもちろん、医学、体育、芸術など広範な分野の教育を擁する大規模総合大学においては国内初の取り組みとなる。またその教育効果を3年間測定することで教育内容の改善も図っていく。筑波大学情報学群長の和田教授に詳細を聞いた。

開学当初からの共通科目「情報」に「データサイエンス」を付加

―1年次学生約2100名全員を対象に「データサイエンス」を必修科目として開講したねらいについて教えてください。

データサイエンス教育は、学長のリーダシップのもとで推進しています。筑波大学は人文、生命、理工、情報、医学、体育、芸術など、広範な分野にわたる教育を行う大規模総合大学ですが、「データサイエンスは、分野を問わず全学でやるべきだ」という方針です。エビデンスに基づいた客観的な判断や意思決定の必要性は、学術分野はもちろん行政・産業分野においても強く認識されるようになってきています。体育や芸術系の学生でも今後はデータリテラシーの涵養は欠かせません。

もとより本学は、1973年の開学当初から全学共通科目として2単位分の「情報」を開設し、基礎的な情報リテラシーとコンピュータの利用技術の習得を図ってきました。共通科目にはほかに外国語や国語、芸術、体育などがありますが、これらの基礎的な科目と同列に情報リテラシーを位置づけているということです。授業は講義と実習各1単位から成り、実習は全学の各所に設置されているPCルーム(パソコン台数計:約1100台)で行っていました。

―新カリキュラムは、どのような内容ですか。

2019年度より、全学を対象とした必修科目として「情報リテラシー」2単位、および「データサイエンス」2単位の計4単位を開講しています。

1年次学生は、春学期にまず「情報リテラシー」から履修します。講義、演習それぞれ75分の授業を週に2時限×5週で学びます。コンピュータ、インターネットの使いこなしを習得すると共に、SNSなどでの自分の行動に責任が持てるよう、情報社会において必要とされる倫理観を身につけます。

そして秋学期から「データサイエンス」が始まります。これは週2時限×10週。ここではデータに基づく客観的な判断や意思決定に必要な基礎的概念を理解し、コンピュータを利用した基礎的なデータ分析技術を学ぶことを目的としています。また海外からの留学生向けに、英語で講義を行うクラスも用意しています。

情報リテラシーの標準修学項目 データサイエンスの標準修学項目

対面による教育で、学生の反応を見ながら興味を持たせる

―筑波大学におけるデータサイエンス教育の特長は、どのような点にありますか。

文系・理系、幅広い分野にまたがる1年次学生全員に対し、内容を揃えて一律に教えるのではなく、教える力点を学部の特性に合わせて調整するよう、担当講師に工夫をお願いしています。ベースとなる標準教材は用意していますが、教える力点はそれぞれ微妙に変えているのです。

どの項目に時間をかけて詳しく説明するかなど、学生の様子を見ながら授業を進める必要があるため、対面での教育に重きを置いています。

―必修化となると、実施計画の策定が大変だったのではないでしょうか。

もともと共通科目「情報」を全学必修で実施していたことから、データサイエンス全学必修化のスキームは持っていました。4単位必修とするには教員が何人必要か、クラス編成をどうするか、細かくシミュレーションをし、2017年度から2年かけて準備を進めてきました。現在、常勤教員30名と、非常勤教員21名で対応しています。さらに大学院学生によるティーチングアシスタントも活用しています。

―スムーズに理解を得られましたか。

新たにデータサイエンスを必修化することのコンセンサスを全学的に得る必要があり、2018年度に1年かけて、各教育組織に対して教育内容や方法、カリキュラムに関する説明会を複数回行いました。よく「学部の壁を超えるのは難しい、どうやって全学必修化を実現したか」と聞かれますが、幸い、データサイエンスの必要性は各教育組織でも認識されており、すぐに理解してもらえました。

―ビデオ学習などの教材は活用されていますか。

オープンコースウェアのプラットフォームを用いたビデオ講義を、カリキュラムの中に3回組み込んでいます。最初の講義にあたる導入部で、学生は6つのコンテンツから自分の興味に合った3つを選んで視聴することになっています。内容は、人文、体育、医学、芸術などの分野とデータサイエンスの関わりや、データの活用事例を学内のその分野の先生に語って頂くというものです。

また学期の中間では「ビッグデータとIoT/CPS」、期末には「人工知能と機械学習」を視聴します。現在の学びの先にある世界を見せることで、学生の興味を先につなげようという意図です。

学生の理解度や意欲を調査し、結果をフィードバックする

―新カリキュラムでは、教育効果を評価するための調査(教育効果測定)を実施すると伺いました。

初回の講義と終盤の講義において15分間の時間を取り、受講生のデータサイエンスに関する理解度、意欲などをオンラインアンケートの形式で調査します。調査内容に関しては情報系の先生だけでなく、心理学の先生にも協力を得て進めています。

調査は3年間実施する計画です。まずは1年を終えた時点で匿名化した回答データを解析して、データサイエンスへの興味や理解を深める要因を探り出し、継続的な教材改善に役立てます。また解析を複数年にわたり継続することによって、学生のデータサイエンスに対する意識や理解度の変化を調査します。測定で判明した内容は、コンソーシアムにも発信する予定です。

達成すべき水準

―今後の目標を聞かせてください。

今回、こうしてデータサイエンス教育の基礎となるカリキュラムができました。まずはその基礎をしっかりと身に付けた人材を育成することが目標です。理系とは関わりが少ない分野の学生でも、「データを使えばこんなことができる」という可能性の広がりに気づかせたい。その上で、次は「スポーツデータサイエンスコース」など、各分野の専門につながる上級コースを設置していければと考えています。

Profile 和田 耕一

学術博士。1984年、神戸大学自然科学研究科システム科学修了、同大学自然科学研究科助手を経て、87年、筑波大学電子・情報工学系講師。90年同大学電子・情報工学系助教授。99年、同大学電子・情報工学系教授。04年、同大学院システム情報工学研究科教授。11年より同大学システム情報系教授。15年より同大学情報環境機構長。18年より同大学情報学群長。